実録・コミティア密着24時!!
私たちは「同人をもっと楽しくする情報誌」を制作する同人サークルCircles' Squareです。このたび同人誌即売会「コミティア」のカタログである『ティアズマガジン』に、新企画「コミティアの現場から」を連載させていただく運びとなりました。
本連載ではサークルの目線でコミティアの様々な現場の様子をお送りしていますが、紙幅の都合から本誌でお伝えしきれなかった情報が多数ございますので、Webで誌面連動記事として皆さまにお届けする次第です!
連載第一回となる今回は、「コミティアというイベントを改めて知る」ことを目指し、2015年11月15日に開催されたコミティア114において前日搬入から撤収までのおおよそ24時間を密着しました。本誌では取材中もっとも印象に残った「地上20mからの俯瞰撮影の瞬間」についてのお話だけしか出来ませんでしたので、このWeb版では取材の時系列に沿ってレポートいたします!
- 協力
- コミティア実行委員会
- 執筆
- Circles' Square
- 掲載日
18:00 搬入開始
スタッフの皆さんたちと通用口から今回の会場となるビッグサイト東2・3ホールに入ると、90×180メートルの「がらんどう」の空間が眼前に広がります。会期中の人と物にあふれた会場しか見ることがないだけに、新鮮な光景です。取材開始早々、周囲の景色に目を奪われている私たちをよそに、スタッフの皆さんは手早く作業に取りかかります。
トラックヤード側のシャッターが真っ先に開放されると、外で待機していたトラックが場内に乗り入れ、静寂に包まれていた会場内にいくつものエンジン音が響き始めました。私たちの前に停車されるやいなやすぐに荷下ろしが開始され、本部事務局の備品やサークル用の机や椅子、展示コーナー用のシステムパネルがカゴ台車に乗せられ降りてきます。並行して、目印のない会場に床の鉄板(配線などを通すピット部分)を目印に「島」の基準となる机が置かれ、机を並べていく準備が整えられました。
18:45 設営協力者の方々も参戦
本格的な設営のための下ごしらえができた頃、有志の設営協力者の皆さんが合流します。
ここからは取材に回る足が追いつかないスピードで設営が進みました。まず、お誕生日席にあわせて島中を形成する机が並べられます。するとサークル用のラベルが机のフチに貼付され、「島」ができあがります。机が並ぶと次は椅子です。椅子が満載のカゴ台車を引きながら3人1組で各テーブルに椅子を置いていくのですが、サークルによって申し込んだ椅子の脚数が違うため、ラベルを見ながら間違えないように気を付けて、しかし迅速に作業されていました。
20:50 設営完了
島の配置を示す1文字のアルファベットやひらがなが書かれた黄色い紙が島端に貼られる頃には、なじみ深い光景が会場内に広がります。設営開始からたったの3時間弱で即売会会場が完成。設営協力者の方はお土産のティアズマガジンと飲み物を受け取ってそれぞれ帰途についていきます。サークル参加の方は、このタイミングで荷物の搬入も可能です(詳しくは設営協力者の募集告知などをご覧ください)。
設営協力者の皆さんが帰られた後の静かな会場は、ホールの端から端まで容易に見通せ、その視界一面に机と椅子が規則正しく並ぶ様は壮観でした。並んだ机はなんと2,520本、椅子は6,720脚に及ぶそうです!
21:20 本日の取材終了、退出は夜間通用口から
まだ残っているスタッフの方は直前の確認事項などの打ち合わせをされていたのですが、私たちは翌朝に取材の予定だったため、一足先に本日の取材を終了させていただきました。主催者事務室を出ると各所の照明は落とされており、なんと「ガレリア」(東1〜3・4〜6ホールの間の中央通路)は真っ暗。既に施錠されている正面の入り口ではなく、夜間通用口から警備の方にお願いして退出します。
帰路の道すがら搬入の作業全体を思い起こしてみると、どの工程を切り取ってもシステマチックに進んでいたのが印象的でした。そういえば、初めてコミティアの設営協力をしたときも、スタッフの方の説明に従うだけで無心に作業を進めることが出来ました。必要な備品、人員の配置、手順といった要素が、100回を超える開催のなかでそれぞれ洗練されていった結果なのかもしれません。
05:30 一般参加者の誘導と待機列の生成開始
さあ、日付が変わり、いよいよコミティア当日です! まだほの暗く、小雨もぱらつく東京ビッグサイト会議棟のふもと。大型の電光掲示板の前に到着すると、始発から来た一般参加者の皆さん40名ほどがすでに並んでいました。一般参加者の皆さんは、スマートフォンや携帯ゲーム機で遊んだり、マンガやカタログを読んでいたりと、思い思いの方法で開場を待っているようです。
その方々をスタッフの方が誘導していくのですが、大きな声で誘導するような局面はなく、来場者が最後尾看板を目印に案内されなくても自分から列に加わっていきます。“淡々と”という言葉の似合う待機列形成の様子に「さすが早朝から並ぶほどの猛者!」と思わず感動してしまいました。
07:00 約200人となった待機列、屋外待機場に移動
日が昇り明るくなってくるにつれて、来場者も加速度的に増えていきます。同日開催のイベントも多数あったため、6時半を超えるころには、他イベントの来場者が間違えて並ばないようにしっかりとした誘導がされていました。他のイベントが女性向け人気タイトルのオンリーイベントだったこともあり周囲は女性が多かったのですが、コミティアの待機列は男性がほとんどでした。会場内で感じる男女比はほとんど同じくらいだと感じていたため、コミティアの早朝来場者に男性が多い理由を改めて調べてみたいところです。
そんなことを考えていると、待機列は国際展示場駅に向かう階段の直前まで伸びていました。ここでビッグサイトの共用部の解錠に伴い、待機列が移動します。東ホールのガレリアに入ると、2階通路を突き抜けて屋外を目指すことになります。東京オリンピック準備のため、今回からこれまで使っていた屋外駐車場を使用できず、もう一段階遠い屋外待機場が開場時間までの待機場所となりました。
07:30 『ティアズマガジン』搬入をお手伝い
待機場所のすぐ脇にあるテントに、『ティアズマガジン』が満載のトラックが到着しました。積み卸しをお手伝いしたのですが、普段私たちが腰を痛めている同人誌よりもページ数の多いティアズマガジンは、より腰に来ますね……。屋外待機場分の搬入が終わるとトラックはそのまま場内に進み、アトリウムの販売所の分のカタログを荷下ろしします。
08:00 カタログ販売スタッフ体験準備
「取材はただ見て回るだけではなく、体験することも大切!」ということで、スタッフ体験として実際にカタログの販売につかせていただきました。そう、先ほど搬入したティアズマガジンを参加者の皆さんに販売する大切な業務です。なお、体験とはいえ滞りなく業務に就けるよう、スタッフの事前集会で担当の方からレクチャーを受け、準備もバッチリです。
最初の業務は販売準備でした。先ほど搬入したカタログはカゴ台車に山積みにされているだけですので、このままではスムーズに販売が出来ません。販売を行うカウンターとなる机の上に、カタログをすぐにお渡しできるよう、梱包用紙を剥がしてカタログの束を並べていきます。隙間なくびっしりとカタログが積み上げられていく様子を目の前にすると、販売に向けて気持ちも高まってきます。
08:45 カタログ販売開始・補充業務
準備が出来たところでいよいよ販売開始です。一般参加者は屋外待機場で列形成・カタログ購入をしているため、この屋内販売所では目下9時からのサークル入場に向けて、サークル参加の方へのカタログ販売を行います。カウンターに並べられたカタログは搬入数のごく一部であり、販売された分のカタログを後ろのカゴ台車から梱包用紙を剥がして補充していくのが役目です。売り上げのペースがまだ速くないうちはわんこそばのお代わりを入れる人の気持ちになって楽しんでいたのですが、ペースが上がってくるにつれ黙々と作業しないと追いつかないスピードに……!
11:00 コミティア114開場・販売業務
開場直前、待機列の形成場所が屋外待機場からアトリウム内に移動します。するとカタログを求める人の量が一気に増え、我らが場内カタログ販売所は一番忙しい時間帯を迎えました。
購入列が伸びてしまったため、カウンターで販売のお手伝いをすることに。カタログを求める参加者の皆さんが一様に明るく、これからお祭りが始まるという高揚感がこちらにも伝播してきて、無心にカタログを販売していきました。
お会計は「1000円ちょうどの窓口」と「高額紙幣対応の窓口」に分かれていたのですが、釣銭のでない「1000円ちょうどの窓口」の稼働率が圧倒的に高く、かつ手元にお金を持って並ぶ方が多かったのはさすが同人イベントだなと感動しました。以前、商業イベントで販売を行ったときの経験と比べると「スムーズに買うために自分たちも工夫をしよう」という心意気が感じられます。良くいわれる「お客さん」と「参加者」の違いはここにあるのだなと、取材中で一番肌で感じることができました。
12:00 スタッフ控室で昼食休憩
労働の後のご飯は美味しい! ほっと一息の瞬間です。
休憩場所は前線指揮所にあたる本部事務局内にあるため、常に場内の監視カメラの様子がモニターに映し出され、和やかな雰囲気のなかにも独特の緊張感を感じました。スタッフの皆さんもシフトが組まれており交代で休憩を取っていましたが、息抜きをしながらも、午前中におきた場内の出来事を話しあったり、これからの作業の確認をしたりと臨戦態勢を崩していない様子でした。ただ、決して単なる仕事をしている空気というわけではなく、場内で見かけた気になる新刊の話や、実際に購入した戦利品の話で盛り上がることも室内のそこかしこで見受けられ、スタッフの皆さんも同人が本当に好きなのだと感じて、無性に嬉しくなりました。
13:00 地上の約20mのキャットウォークへ
地上20メートルの作業用通路からの撮影ということで、被写体となるコミティアと物理的な距離がもっとも離れた瞬間でしたが、反対にもっともコミティアを近くに体感した瞬間でした。この時の様子はティアズマガジン本誌でお話していますので、そちらをぜひご覧ください。
14:00 会場内各コーナー取材
取材のために会場内を巡回します。普段私たちがサークル参加しているときでも閉会時間まで参加者が多いことは肌で感じていましたし、今回取材で回ったかぎりでも、お昼過ぎにもかかわらずサークル、各コーナーが盛況であり、閑古鳥が鳴いているスペースがほとんど無いのは他のイベントにはないコミティアならではの特色だと思います。
たとえば、14か国58グループが参加した海外マンガフェスタコーナーでは、サークルスペース、ステージイベント共にコーナー外と同様に盛り上がっていました。語学に堪能な運営スタッフさんが日本人の一般参加者とクリエイターのコミュニケーションを手助けする一方で、簡単な身振り手振りだけでやり取りをされている方も多く、「マンガ」という共通言語に国境を超える力を感じました。
ほかにも、見本誌コーナーでは、真剣に同人誌を読む参加者の方々が印象的でした。今回は会場のスペースの都合で目立ちにくい2階の商談室での開催でしたが、撮影機材を持って入るとお邪魔になりそうなくらいの盛況ぶりでした。
そして、今回初めて取材者という視点でサークルスペース全体を回ってみて気付いたのが、一般参加者の皆さんが楽しみながら笑顔で会場内を往来しながらも、各サークルの作品に真剣なまなざしで向き合っているということ。作り手と受け手がいて初めて成立する創作において、創作者の想いを受け止めてくれる読者の存在は何よりも得がたい存在のはずです。1サークル参加者として、今まで以上に作品に魂を込めてこの場に望まなくては……と、改めて身が引き締まりました。
16:00 コミティア114閉場、撤収開始
閉会のアナウンスとそれに続く割れんばかりの拍手を合図に撤収がスタートです。サークル参加ではお祭りのような時間が終わって少し寂しくなったり、宅急便搬出に向けて慌てて片付けをしているところですが、今回は撤収に集中すべく、15時30分から会場内で開催された参加者向けの事前説明会で教わった通りに机・椅子を畳んでカゴ台車へ収納していきます。
片付けの終わったサークル参加者の方もお手伝いに回るなど、設営時より人手が多いこともあって、設営以上にスピーディーに作業が進んでいきます。その早さは、自分の作業に集中している間に周りの片付けが進みすぎて浦島太郎状態を味わえるほど。ものの数十分でトラックが場内に進入できるほどに撤収が進み、机や椅子が満載になったカゴ台車が次々と積み込まれていきます。
17:00 スタッフ以外の参加者が退出
多くの方の協力で撤収作業はほぼ終了し、お手伝いの一般・サークル参加者の方も帰途につきます。机や椅子といったレンタル備品の撤収に目処がついたところで、本部事務局で各々が簡単な報告書を作成したのち、事後報告会が行われます。この報告会では、部署ごとに当日の様子や反省点が報告されるほか、新しく入ったスタッフの紹介も行われていました。
そして、搬出作業がおわったホール内ではビッグサイトの清掃担当さんによるメンテナンスが入ります。乗用の大型清掃機が会場内を隅から隅まで往復し、取り切れなかった細かいゴミを十数人の作業員の皆さんが手作業で回収していきます。当然のことなのですが、こうして使用後の会場を綺麗にしてくださる方がいて初めて快適にイベントができているんですね。次回から、サークル撤収前にゴミなど残してしまっていないかもう一度確認しようと思います。
18:30 会場引き渡し
準備委員会の事務所に備品を送る最後のトラックも出発。再びビッグサイトの東2・3ホールは静けさを取り戻し、24時間前と同じく次のイベントを静かに待つ「がらんどう」の空間に戻りました。ほんの2時間半前に同人誌即売会が開催されていたなんてまるで夢のようです。ですが、この光景こそがコミティア114が無事に終了した証です。
会場を引き渡し、スタッフの皆さんは打ちあげに向かいます。
19:00 打ちあげ
会場付近のレストランを貸し切って打ちあげです! ご相伴に預かりながらお話を伺うと「この打ち上げを迎えられた瞬間が一番嬉しい」「今回も無事に終えることができてほっとしている」と口々にコミティア114の成功への喜びを伺うことができました。ただ、喜んだのもつかの間、早くも次回以降のコミティアの話題も飛び出しており、年4回の開催を続ける大変さも垣間見えます。
コミティア準備委員会の皆さま、本当にお疲れ様でした! そして、取材へのご協力をいただきありがとうございました!
取材後記
コミティア準備委員会の皆さんは事前の準備集会のときからとても和気あいあいとした雰囲気が印象的で、私たちの取材にも快く応じてくださいました。そのおかげで、取材を通じて、いままで何気なく一般参加やサークル参加をしていたコミティアというイベントが、「本当にたくさんの人たちの尽力のおかげで開催されているんだ」ということに改めて気付くことができました。実行委員会の皆さんだけではなく、レンタル備品の業者、サークルの宅配便搬入を支える運送業者、早朝から待機列の安全を守っていた警備員、会場を管理し絶えずメンテナンスしているビッグサイトの担当者。様々な立場の方が集まってこのイベントが成り立っていると気付きました。
ただ、同時にスタッフや業者の方々がいくら努力されても、一般参加者・サークル参加者がルールやマナーを守ってイベントを楽しもうという気概がなくてはコミティアの成功はあり得ないこともまた気付きました。「お客さんはいない、全てが参加者」という同人イベントを包む不文律はまさに真実だと、コミティアの成功を見ることで実感できたのです。「参加者」としての意識を持ってイベント参加をするのはもちろん、設営やサークルの巡回受付、撤収といった作業の協力を通して、コミティアがさらに楽しいイベントになる一助となれれば、きっと素敵ですね。
なお、今回の取材にあわせて、コミティアの一日をタイムラプスでギュッと濃縮してお伝えする、世界初の「同人誌即売会 24時間定点観測映像」も撮影・YouTubeで公開しておりますので、ぜひどうぞ!